言問橋炎上

平石 祐一   
            
  バケツリレーや火タタキの奮闘もこれまで
  つぎつぎ炎上する家家
  東京下町 浅草と本所の間を流れる
  隅田川はまだ黒々と静まっていたが…

  それをつなぐ言問橋へは
  両岸から早々に逃げてくる人々が橋上でぶつかり
  鐘を鳴らし急ぐ消防車も人混みに遮られ
  橋の真ん中で立ち往生

  ぼくはさらに小さな妹の手をひっぱり
  父母と共に対岸へいこうとするが
  リヤカ− 大八車 大きな風呂敷包みの人混みに
  邪魔されて進めない
  ”おまえらだけでも先に行け“

  父に背中押され 空身の小さな二人は
  つんのめるように
  捨てられぬ荷物で身動きとれぬ大人の壁の襞を
  くぐりぬけ
  火の粉はらう消防車上の熱した顔 横目で見
  “兄ちゃん靴…”躓く妹の腕を強引にひっぱりつづけ
  人の背をふみ 荷物をよじのぼり
  
  やっと橋の袂にたどり着いて
  ふりかえると
  一瞬 火わたりして言問橋全部白熱と化し
  火達磨のまま欄干から飛び込む人々
  彼岸にそびえる浅草松屋は
  巨大軍艦が花火をあげるように 空に火を吹いている 

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