最後の賭け
平石 祐一
狩りたてられた小鳥たちのように
三方から迫る空襲の火に追われ
いつしか校舎の中へ追い詰められた
江東区民30名あまり
そこも最終的に火が迫る
あきらめるな 頑張れの声がとび
がらんとした空間へ導かれたが
前方から舌なめずりしながら 炎が迫る
絶望の悲鳴が起こる
大きな影が 意を決して立ち
“男よ みんなションベンしろ”
それでも足りぬ
“女どもよ 尻まくって一列に並べ”
崩れかけた人達が 身を起こし
次 次 前に出て
一斉の放尿が前にとぶ
どの位たったか
ぬれのこる床の向こう 火の波は背を低め
その背後 きりとられた額縁の中で
夜明けの空が白みだす
“ おお ”と 声があがる
原典 東京大空襲戦災誌第4巻広津和郎「尿の放列消化」