疎開っ子
平石 祐一
その1
ぼくは東京 君らは農村
言葉は交信(シンをかわす)の手段だというが
ここでは言葉は拒否と侮蔑をあらわす
同級生・二三人に囲まれ
両の掌を前にぐっと突き出され
児童のぼくは
あたりがまっくらに変色し
誰も助けてくれない空間に佇んでいた
戦火に追いたてられ
暗い混んだ汽車にゆられて辿り着いた
そこはおだやかな樹立広がる田園
牛が間延びした鳴き声で迎えてくれたが
今は誰も僕の許へは来てくれない
寄宿先の叔母さんは一里先
ポケットで父から貰ったお守り袋を
ギュッと握り締める
その2
集団疎開の献立
敗戦一年前の夏の
朝 茄子の汁
昼 かぼちゃの煮付け
夕 茄子味噌あえ
次の朝 茄子の汁
昼 馬鈴薯の塩ゆで
夕 かぼちゃ煮付け・きゅうりもみ
次の日も なすとかぼちゃときゅうりである
その間の日課
どんぐり一粒『敵撃滅の一弾丸』だと
一千貫を目標に
くぬぎ・ならの林に散開
今日は出征兵士を見送り
小旗をもって両側ならぶ
兵士のうしろには
小さな小母さんが袖でそっと顔ふいていた
とある日 いじめっ子が駅にいた
母親にぴったりくっついていた
母親は白木の箱をもっていた