ソ連参戦

平石 祐一   
  満蒙国境牡丹江からハルビンまで400K
  日本からの開拓団部落はつぎつぎ避難引揚げを開始

  昨日までの日本支配下の街々ではない
  満人漢人の憎しみ敵意ある眼を避けて
  曠野の襞 森の樹陰を泥棒栗鼠のように移動してゆく

  貴重品必需品 最小限を背負い手に持ち
  地平線の果て 大きな夕日沈むこと何回か
  前途不安な引揚民はグループの長 岡田の励ましに背を押され

  狼のように襲い略奪するかっての雇用人達
  生き残ってよろよろになった者と出会った岡田グループは総毛だち
  何時我が身かと思う矢先
  未明右後方から土煙りたてて一群の馬が迫る
  壮年は猟銃拳銃と長柄の鎌で外側を囲み
  長 岡田はみんなに覚悟を決めさせ

  迫り来る先頭の馬上で人民服の男の右手あがり
  惨劇の開始?!
  “待て
   あなたは岡田大人!
   みんな此の方は私の元主人
   恩が深い”
  岡田大人は眼を見張る
  自分の使っていた若者が眼前に

  “こちらではなく あちらの道を進んだ下さい
   それでも匪賊に出会ったら私の名前を”
   彼等が一列に見送る中
   わが逃避者みんなこの時ばかり
   ゆっくりとした足取りで歩き始めた

  “運命は自分が作っているんですかね”
   40年近くたったある夜
   とある信金専務になった岡田さんは僕にぽつりと語ってくれた
        

     
inserted by FC2 system